目からうろこ
「褥瘡対策にはこういうのがあって、感染症対策にはないの?」
医事課重鎮O氏のふとした一言でした。これはS病院の褥瘡対策の書類一式を見ての言葉でした。
現在どの病院でも、褥瘡対策や感染症対策が行われていることは当たり前ですが、それらの対策をよりきちんと行うためにと、診療報酬上でも減算・加算の対象となっています。そのため、S病院でも感染症対策のより質を高めるためにこうした対策を行っていないのかという疑問が投げかけられたわけです。
「そう言えばそうですね」と気づかされた私は、早速感染症対策委員をしているT君にこの話をしました。以前からもう少し感染症対策のために的確な方法はないかと考えていた彼にとっても、このことは盲点だったようで、「早速やってみます」と、意欲十分な答えが返ってきました。
S病院のように介護入院が主体の所では、大部分の患者様の病気はほとんど落ち着いた状態です。しかし病気によっては二次的に感染症にかかりやすくなる場合も少なくありません。ですから、そうした感染症のかかりやすさを判断することはとても重要なことでした。これまでも疥癬症など様々な疾患に悩まされてきた私たちは、「なるほど」と納得がいく一言だったのです。
数日後、ひとまず、と出来上がってきたS君のアセスメント表を見て、早速議論が始まりました。このアセスメント表には、現在どのような感染症にかかりやすいかという他にも、他の患者様や職員への感染を防ぐために必要不可欠な項目がびっしりと詰め込まれ、それはT君の知恵を振りしぼった出来ばえでした。そして次にこの表を叩き台として、感染対策委員会や医局会、看護部会の意見を聞きながら最善の導入策を模索し、何とか全患者様に対して入院時にこの表を作成する段取りがつきました。
もちろん医師や看護師は、情報提供書や患者自身の情報を書くことへの利便性を求めました。そして2003年ももうすぐ終わりというころに使用開始となりました。
ところが、それまで何回となく話し合いをしていたにもかかわらす、現場では導入当初、混乱続きとなってしまったのです。この表を作成したT君の気持ちや気配りをくみ取ることなく、「どこにどう書けばいいの?」「書きにくい。項目が多すぎる」などなど、さんざんでした。いちいちそのような意見?をもって次々にDI室に看護師が駆け込んできました。「ここは駆け込み寺?」と私は一時的に思いこんでしまいました。
しかし皆のこのような意見は、実はとても大切だと、あえて私は思っています。確かに一度決めたことはある程度は同じ形で継続することは大切です。しかし大規模病院ならいざしらず、小規模病院はフットワークが軽いのですから、このような場合随時手を加えることがすぐにできます。なにしろ会議はしょっちゅうあるわけですし、メンバーの主な者はいつも会議に出ているのですから。
ということで、3ヶ月もするとS病院独自のリスクアセスメント表がリニューアルの様式でできあがりました。現在この表を作成したことによる有益性は、私たち薬剤師のみならず医師・看護師からも認められるようになってきました。
今や医療は、病院のスタッフだけで行われる時代から患者様やその家族が参加した形で実践される時期になったのです。今どきのニッポン、いやいや今後の日本の医療がアメリカの医療に追従する時代から一人歩きになりつつあることを感じ、その片隅で参加している自分のシアワセを感じている日々が続いております。