配薬へのかかわり

近年マスコミでもよく話題になる医療事故は、ちょっとしたことが原因で生まれる場合も多くあります。薬の関係では、薬を作る調剤、調剤の下準備をしている時の充填間違い、出来上がった薬を調べる監査での見落としなど、間違いが起きる危険性はいっぱいです。

また、調剤以前に処方箋内容についての吟味の見落としで患者様に不適切な薬を渡してしまう可能性もあります。

2003年の夏、S病院では2件の薬に関するアクシデント報告があったので、それをきっかけに業務の見直しを行いました。その報告のひとつは、2人の患者への薬が逆になって間違って渡されたことと、もう1件は、頓服薬を別の方に飲ませたことでした。

薬はそれぞれの患者ごとに1回分を1袋にして部屋番号、名前、飲む時間を包みの表にマジックで書いてあります。しかし薬を配るという業務にすっかり慣れていたスタッフは、注意しながら、というよりもむしろ「いつものように」という感覚でこの仕事を行っていたようです。間違って別の患者様に薬を配ったという感覚はまるでなかったのです。

いずれにしても、薬は調剤室で調剤、監査の後、薬剤師が病棟に運びます。これを受け取った看護師は各患者用のケースに薬を朝、昼、夕と示された所に入れて行きます。入院の患者様の薬はほとんど一度に7日分作られています。調剤をどれだけ正確にしても、患者様に薬を配る(配薬)時や、お渡しする(与薬)時に間違いが起きるようではいけません。ましてそれ以前に間違って準備されるようでは、なおのこといけません。そこで早速、この連続の間違いがあったことを教訓として、私たち薬剤師は話し合いをしました。
今回に限らず、配薬や与薬での間違いは二通り考えられます。まず、薬を患者一人分ずつに配って歩く時に別人の薬を間違えてお渡しする。またそれ以前に患者様用の個別ケースに入れる時に間違える。これらの間違いの原因をなくすることを考えればよいわけです。

そこで看護師が配薬する部屋順に、しかもその部屋にベッドが複数ある時は入り口から見て左手からに決めて、その順番での配薬トレーを、A君の発案で薬剤師が作ったのです。そのトレーへの薬のセットは薬剤師が行うことにしました。巷では配薬車や配薬用のトレーも薬剤備品として売られているのですが、なかなか高価で購入の予定は立ちません。「無い物ねだり」より実行が大切です。

ただちに、薬の空き箱を利用してトレーを作ることになりました。薬の箱はお菓子などとちがい、とても丈夫な箱が使われています。よく使う製品はいくつも同じ空き箱が出てきます。また仕切りにする紙も硬めのきれいなものが集められました。その後、ボンドやビニールテープを駆使して立派なケースが仕上がりました。2階大部屋、2階個室、3階大部屋、3階個室と、4組できました。

さあ次は看護部との話し合いです。薬剤師と看護師が数人ずつ集まりました。薬のセットの仕方では薬剤師がこの病院では当直がないので日中のみの勤務のため、1日分セットがよいのではと提案し、看護師たちはおまかせということでした。このような場合、お互いに困ることがない状況を作ることが大切です。はじめから「がまん」は、私の仕事を進める上でのモットーに反するのです。

こうしてスタートした薬剤師による薬のセットは、不慣れながらもどうにか間違いも起きず実行され、一週間後には全部をセットするまでに一時間半くらいでできるようになりました。

また、よかったことは、薬剤師が確実に前日の薬の未服用分を把握でき、その原因をしらべ、さらに患者様やスタッフにアドバイスを多く行える状況ができてきたことです。毎日の業務の積み重ねが大切ということを改めて感じさせられた業務の展開でした。