いま時の「お薬渡し口」
2003年12月の半ば、次のような感想メールが届きました。
エッセイの中で気になることがありました。最初の「お薬渡し口」のところにありますが、「○○科の○○の薬がでています」って、元気な声で言うのはやめてください。泌尿器科とか肛門科とか、人に知られたくない病気にかかっていますと、窓口に並んでいる他の患者に聞かれるのはとってもいやです。同じように、診察前に待合室で看護師が「今日はどうしました」って聞くのもいやです。「こんなに大勢人がいるのに話したくないもんね」という気になります。
忙しいのはわかりますが、多くの病院で患者の個人情報が無視されているような気がします。患者のわがままなのでしょうか。
私はこのメールを読んだ途端に「しまった」と思いました。話題になっている「お薬渡し口」のエッセイは平成11年春ころに書いています。そこでその当時を振り返りつつも今の窓口との違いを書く必要を感じましたのでここで少しふれさせてください。
ここ数年病院では患者様のプライバシーについての気配りが非常に取りざたされています。代表的なこととして入院患者の部屋の名札や外来受付の仕方、薬の渡し方などでの変化です。
今までは病室の入り口近くに患者様の名札が貼り出されており、この部屋には誰が入院中ということがすぐわかりました。もちろんスタッフには都合がよくて部屋に入る前にどなたの部屋とすぐわかりました。しかしこれは外部から見えた方々にも誰が入院中とわかってしまいます。このことは患者のプライバシー侵害につながる行為ともいえるのです。まったくスタッフ中心の考え方で医療が行われていた典型的なことのひとつといえます。たとえ部屋の入り口に患者名がなくともスタッフルームや患者様のベッドには患者名が記されており、最近は十分患者確認が行えると考えられるようになり、多くの病院で、この名札が廃止となってきております。
ところで外来で長く待っていた患者様がいざ診察で医師の前に座った時、以前は医師の質問に答えるだけというスタイルが多く見受けられましたがいま時の取り組みを行っている病院は大いに違います。診察医師などのスタッフがまず自分の名前を名乗り、その後患者様自身の名前を言っていただくような患者確認の手順がしっかり決められ、その後診察を始めるのです。ですから患者様としては昔の「おまかせ」というのではなく、はっきりと受診理由や体の状況を述べられることにより患者主体の医療となってきております。
そういえば外部からの電話で「○○一郎さんが入院していますか? 」などの問い合わせに最近は「お答えできません」という場合がほとんどです。
話は前後しますが、外来にはじめて患者様が受診に見えるとほとんど申し込み用紙を記入して受付をします。受付ではカルテや診察券を作成し、診察へと手続きが進みます。以前はいちいち患者様の名前を大きな声で呼び出していました。今は番号札を渡したり、PHSやポケベルでの呼び出しをするようになってきております。外来全体に響き渡るようなマイクを通しての呼び出しはもってのほかという風潮です。また玄関ホールには総合受付があり、看護師などのベテラン職員が来院者の様子をみてすぐ近づき相談にのったり、案内したりするシステムも多く見受けられます。もちろん申込書を書く専用のコーナーが設けられております。またどの科を受診すればよいかと悩んでおられる方には的確にアドバイスをするサービスも行われます。
さて問題のお薬渡し口ですが今は処方箋と引き換えに番号札を渡す場合が多く見られます。更に待ち時間の長い病院では番号表示も行っているやり方もよく見受けられます。また薬の説明は小さなブースに患者様を誘導し、そこで腰掛けてゆっくり話や説明をするスタイルもできてきました。昔の窓口がカウンター式になりこれがまたブース式になったのをはじめて見た時、時代の変化をヒシヒシと感じました。しかしこれは患者様により迷惑に思われることも多いようです。なぜって普段はそのような個室に誘導しないで特別な患者様だけ呼び入れればそれなりにまわりの方々が興味を覚え、ご本人はさらに嫌な思いをする場合もあるからです。今や医薬分業が進み外来患者様は薬を調剤薬局で受け取られる場合も多くなってきています。調剤薬局の待合室は病院のそれよりさらに狭い場合もあり、話は周りにもっとはっきり聞こえるようです。処方箋の内容や薬局の機能にもよりますが、調剤薬局こそ早くブースのあるお薬渡し口になってくれればいいなあと私は思っています。そして患者様が満足できる十分な医療サービスを受けられる病院や薬局がますます増えていくことを願っております。
最後に先のメールを下さった方へはすぐ返信をお送りしたことはいうまでもありません。もちろん今後も感想をお寄せいただくことを楽しみにしていることも付け加えました。皆様も是非、ご意見、ご感想をお寄せください。