夏祭り その1

2002年の夏まえのことでした。ソーシャルワーカーのMさんが「夏祭りをやりたい」と相談に来ました。私たちがいる病院はその半年前から療養型病床になる準備に入っており、この夏からは工事が開始されることになっていたので、安全性を考え「来年はきっとやりましょう」と約束しました。

年が明けると、Mさんと私は相談し、いくつかの会議後これを行う了承を病院側から得ました。まず実行委員会を立ち上げ、夏祭りの意義をきちんと職員に把握してもらう必要があります。90年以上の歴史があるS病院ですが、ずっと設置されていた結核病棟を2002年3月のはじめに廃止し、一般内科だけの病院となり、入院は長期の療養型病床だけに切り替えたところでした。

したがって、入院中の方はご高齢で、ほとんど慢性疾患の糖尿病や高血圧などの基礎疾患を抱えていらっしゃいます。かといって、急激な病状の変化や強い痛みがあるわけではありません。時々気を紛らわせるレクレーションなども必要なのです。毎月のお誕生日会をはじめとして、曜日ごとにお話し相手や食事の相手、手芸やちぎり絵、習字教室などのボランティアが訪れるようになっていました。

これらのレクレーションのほかにも、外に出ての行事もしたいと考えたのです。それともうひとつは、以前にも増して患者様中心の病院になったことを地域の皆様に知っていただくことも、地域密着型病院にとっては必要と思われたのです。

夏祭りは7月26日に決まり、まず地元自治会にご挨拶です。行事の趣旨をお伝えした上でお祭り用の道具をお借りしたい旨をお話すると、紅白幕、テント、提灯などの貸し出しを快諾してくださいました。

紅白幕は会場となる駐車場の周りを取り囲んで雰囲気を盛り上げるためです。テントは日差しが強すぎた時、また反対に、もし雨でも降ればと思ったのです。提灯は中に明かりをともすわけではないのですが、飾りとして華やかさが出ると考えたのです。実際夏祭り当日は、自治会長さん自らが会場設営も手伝ってくださいました。おかげでこれらのねらいは的中し、お祭り気分を盛り上げるのに大いに役にたちました。

また夏祭り一ヶ月前には、自称「院内ポスター係」のA君が作ったちょっと派手なポスターが病院内や町内掲示板に張り出されました。
それからボランティアさんのことですが、これまた思いがけず多くの方にご参加いただけました。

まず太鼓の三人組のおば様方です。トラックの荷台を舞台代わりにご使用いただくようにご了解いただいていました。ずいぶんあちらこちらの老人ホームなども訪問されているようで、「自分たちの出番以外でも合いの手を入れますから」ということでした。

次は民謡サークルのおじ様おば様方です。このグループは、実は地元のお祭りではご高齢ということで現役を退かれたとのことでした。そこでなかなか踊る機会が少なくなっているので、楽しみに参加していただけることになりました。

そして日ごろ患者様の食事を作ってくださっている厨房の皆さん方です。いつもの食事作りがある中で、全員出勤でお手伝いするというお話です。フランクフルトソーセージとおでんを作ってくださるといわれます。

またご近所のパン屋さんには特別に1個100円のパンを作ってくださいとお願いしました。昔懐かしいアンパンを始め、メロンパン、焼きそばパンなどを、特注で170個仕入れることになりました。

そして7月の最終土曜日。いよいよ夏祭り当日です。前日からの梅雨の空模様ははっきりしません。直前のこの地区の天気予報をインターネットで確認の上、正午をもって実行委員長からゴーサインが出されました。

さあ夏祭りのハジマリ、ハジマリです。