全員参加を目指して

S病院では、2002年の夏ころに構造設備を見直し、その年の末には全病床を慢性期病床に切り替えました。その結果、入院中の方々はほとんどが長期入院患者様で占められるようになりました。そして今年はソフト面の見直しを進めております。よく事業の要は、人・物・金といわれます。ここでは、物の中でも病院では欠かすことができないカルテの記載についての取り組みをとりあげてみます。

この病院は創設以来の約九十年間、急性期を対象とした病院でした。急性期疾患での入院は短期間の場合が多いですから、それだけ病状は日々刻々と変化します。ですからカルテ内の記載は、医師の書く文字が溢れるように並んでいます。しかし慢性化した病気を扱う療養病床では、医師の回診が行われても患者様の病状の際立った変化がなく、カルテ記載が何もない日々が続きます。

2003年の1月も終わりころ、私と看護部長は、従来の治療に主眼をおいた急性期のカルテと長期介護のそれとは自ずと使用目的、使用方法が違うことを、遅ればせながら身をもって実感したのです。

その当時、看護師たちは相変わらず患者様の体温、排便、睡眠などを看護記録に記載していました。この記録は、1日分がA4用紙1枚では足りないほどの量でした。またケアワーカー(看護助手)は、受け持ちの患者様の情報や看護師からの指示を自分たちの小さなノートに記入していました。

管理栄養士の栄養指導記録はさらにまた別の紙に記載し、伝達に必要な事柄のみ看護師や医師に直接話す方式でした。私たち薬剤師も栄養士とほとんど同様でした。このような状況の中から、『自分たちが得た情報を皆で共有すれば患者様への細やかなケアにつながるのではないか』という声が、スタッフからあがりました。

2月に入り、看護部長と私が話し合い、「全員参加型」のカルテ記載に踏み切る決心をしました。

まず、医局会で2人は提案しました。医療現場では医師が主導権を握っていますので、まず彼らを説得しなければなりません。医師たちも病状や経過を見るためには、あちらこちらの書類や綴りを見なければならない現実にうんざりしていましたので、割合すんなりと理解を示しました。その後、看護介護のスタッフには看護部長が、医師を含めた診療や事務管理部門には私が説明役となり、それぞれの理解と協力を促しました。
それから数回の会議を経て、看護師、栄養士、薬剤師、それにケアワーカーなど各々の記録を1枚の用紙に統合しました。そのための手段のひとつが医師、看護師、その他スタッフが記録する文字の色を黒、赤、青としたことです。このようにしてすべての職員がカルテ記載を行う試みを開始した時には、もう3月になっていました。
このやり方の導入当初は、書きやすいように時間、内容、サインのみでも「OK」としました。そしてさらに一ヵ月後、内容の部分には看護部長の提案で、「フォーカスチャート」を使用しはじめました。

5月になった現在、まだ理想通りとはいきませんが、『患者様の経時的な変化とスタッフの関わりが一目で見えるようになった』ことは大きな収穫です。また各部署で、はじめは懐疑的だった一部のスタッフにも好評を得ることができました。
医療は1人の患者様に多職種が関わって行われます。もちろん各職種がしっかり自分の業務を行うことは大切です。そのうえで各スタッフが連携プレーを行うことで、患者の肉体的、精神的な負担を減らし、患者、医療者がともに、経済的にも無駄のない動きをすることもとても大切なことなのです。

そして今、カルテ記載の取り組みから療養型医療の本質を考える時、急性期とは一味ちがった奥の深さを感じ、日々過ごしております。