おいしさを求めて その2
平成15年2月の最初の火曜日、「春には給食業者を入れ替えます」と、朝礼で職員を前に私は発表しました。数人の幹部が知っていただけの話なので、皆一様に驚きの表情です。「食事はおいしいことが原則ですから」と話を結びました。しかし真実の私の気持ちはこれだけではありませんでした。最も私が重要視したことは、食事提供時間と検食のことです。
食事提供時間は、普通の家庭では当たり前の、朝食8時、昼食12時、夕食6時にするということでした。実は今までは昼食、夕食ともあまりに早く、患者様のニーズというより職員がやりやすいということで行われていたのです。ですから、この時間設定は業者側としては当然と受け止めてくれましたが、むしろ病院スタッフを説得するのに時間を要しました。残業時間に食い込むことや、定時に帰れないことで、嫌われたのです。「すべて医療はサービスである」と説得し、また、時差出勤での対応を促しました。
もうひとつの懸案は、検食のことでした。今回給食のことを検討する際、幹部職員がほとんどこの病院食をたべていない現実があったのです。そこで、週1回は幹部のだれもがこの給食を食べるという「検食」を、曜日ごとに担当していただくこととしたのです。患者様へのサービスの現状を知らなくては、今後の病院運営を図ることはできないと思ったからです。
こうして準備や検討会を重ねるうちに日にちはドンドン進み、とうとう3月も末日になりました。その日は今まで入っていたS社がいよいよ撤退の日です。いつもの食事つくりの合間に、パソコンをはじめいろいろなものを運び出しています。この特別な日にプロジェクトを組むことなく通常の人員でやっているのを見て、これでは今までもトラブルも多かったことなどを、私は納得しました。撤退作業は手間どり、とうとう夜も更けての8時ごろやっとサヨナラのご挨拶をしました。
一方、翌日から業務をするA社は、夕方までに明日の仕込みを別の場所で下準備していました。スタッフも特別にそろえており、S社の挨拶があったすぐ後に搬入の行動開始です。たちまち倉庫や事務室に品物や備品が入り、あちらこちらで打ち合わせがはじまりました。調理場も活気に満ちています。ふと気づくと、もう明日の朝食の話し合いに入っています。当院の管理栄養士も「大変!」と言いつつ、とても嬉しそうな顔です。9時過ぎには、私はこのあたりで「用なし」と思えたので、後を皆さんに任せて退散いたしました。
翌朝、私はいつもより少し早めに出勤しました。A社の給食初日です。とくに朝食は本当の1回目ですから、こちらも緊張します。献立を見ると、厚焼き卵とシーチキンサラダ、それにご飯と味噌汁、牛乳です。この朝食は予定より20分遅れ、昼食は10分遅れ、そして夕食は定時に提供され、これでやっと軌道に乗りました。そして何より嬉しいことは、職員、患者様とも皆「おいしい」との感想でした。
食後の配膳車に戻されたトレーには食べ残しはほとんどないのです。一方、職員食堂の昼食はどうだろうかと、皆さんがほぼ食べ終わったころ私も食事に行きました。食堂入り口には食べ残しの残飯入れがあります。覗いてみると、何とほとんどカラッポ!。
その後も残飯は減り、患者様には食欲が出てきた様子ということでした。「香りがこおばしくて、おいしそう」「待ち通しい」との言葉は喜ばしいことです。
二ヶ月がたち、今も好評は続いています。また偶然とは思えないのですが、褥瘡患者様がずいぶん回復され、人数も減ってきたことが、とてもありがたい現実でした。