おいしさを求めて その1
平成14年10月のある日、褥瘡対策の研修会で、患者様の栄養管理が大切という話をうかがいました。問題点として、長期入院患者様は総蛋白質の検査値に低下傾向が見られ、食事が原因との指摘があり、私は思わず頷いてしまいました。今の勤務病院でもそうだったからです。
数年前から、患者様の入院費用の中でも食費は個人負担となり、別扱いになっております。よりよいサービスを実感していただくためには、食事をよくすることは大切なことなのです。前々から私は、食事が誰にとっても楽しみなことという思いを強くもっております。
多くの病院と同様に、当院も給食担当は外の会社であり、1日単価が決められている中での食事提供です。したがって、食事に関することはほとんど外注業者が行い、当院の管理栄養士の仕事は、表面的には栄養指導や食事の点検管理だけなのです。そこで管理栄養士にも現状を聞くべきだと考え、彼女と面談しました。
すると「おいしい食事を提供したいのは当然です」と断言し、そのあと、自分が若いので経験豊富な先輩の指導を受けたいこと、自分の意見も取り入れた献立も欲しいことなどを、矢継ぎ早に語り始めました。まるで今まで胸いっぱいにあった思いが一気に噴出した感じでした。これには私自身が大変なことに「はまった」と気づき、少々あせりを感じましたが、だからといって、このまま放ってはおけません。
数日後の幹部会議でこの現状を話し、給食の検討をする了解をとりました。そして職員食堂で食事をしていない幹部職員は現状に興味をもっていないこともわかりました。実際に食べている患者様や職員の一人一人が食べる量が少なく、食べ残しの残飯が多いことやおいしくないことを理解していただくには、私としてはちょっとエネルギーを要する現実がありました。
次の日から、他病院に勤務している薬剤師仲間へ電話をかけまくりました。
「お宅の病院食はおいしいですか。業者はどこ?」
いろいろな会社の名前が浮かんだうちで、おいしくて経営が安定している様子の2社に声をかけ、営業マンと面談しました。A社は全国的にみれば中規模会社、B社は地元の小規模会社でした。
いろいろ相談する時、どうしても現状をベースに考えるため、患者様の負担増加につながる話やメニューが減ることは厳禁でした。病院の食事は、病気によって糖尿病食、腎臓病食、減塩食など、また何でも普通に食べられる方の食事は常食、噛むなどの機能的な状態からお粥はもちろんのこと、刻み食、極刻み食、ペースト食などと、細かく指示されます。これらの細かなオーダーを面倒がらず、おいしく提供することはとても大変なことなのです。
何回も営業マンと面談を繰り返しているうちにもう年の瀬になってしまいました。そして高齢者食や病院食をよく研究していることから、当院の患者様に満足していただけるのではと思い、ほぼA社にお願いすることにしました。
年が明けるとA社が現在業務を行っている病院に当院の管理栄養士、業務部長と私が出向いて、試食をさせていただくことになりました。
その日のメニューは付け合わせに色どりのよい生野菜がついた白身魚のフライ、卵豆腐、ワカメの味噌汁、デザートにはみかんがついていました。味付け、色どり、盛り付け、量、香り、それにコストなど検討することが多く、食べたり、写真を撮ったりと、忙しいながらおいしく楽しいひと時でした。
その後会議でこの時の写真や資料で説明をし、やっとA社に決定できました。業者交代を3月末日とし、早速詳細な打ち合わせに入った時には、もう2月になっておりました。