昔と今の薬剤師
薬剤師は昔から薬を作る人でした。そして今も薬を作るだけの人だと思われているのが現状です。
薬を作ることはその昔、医師がしていました。映画や小説で医師の華岡青洲(はなおかせいしゅう)のことはよく知られています。彼は新しい薬を使えるように妻や母にいろいろと薬を試しました。そのあと薬剤師という職業ができました。
ところが日本では今でも、医師に調剤をすることを認めています。もちろん僻地(へきち)や船の中など、やむをえない場合もあります。しかし市中の診療所や医院などで薬剤師不在もまだ存在します。先日私が住んでいる埼玉県では薬剤師がいない病院が10ヶ所もあると聞き驚きました。最近の医療事故多発のことを思う時、早くこのような薬剤師不在はやめるべきだと私は思いました。
調剤する前に処方箋の内容チェックや監査があります。この時に疑問があれば、処方箋を発行した医師に問い合わせます。これは「疑義照会」といわれ、薬剤師の最も大切な業務のひとつになっています。
調剤して出来上がった薬を患者さんへ渡す時、薬について詳しく説明することを「服薬指導」といいます。薬の効き目(薬効)、飲み方(用法用量)、保管の仕方、副作用のことなどを、状況に合わせて話すのです。最近は副作用に気をつけるようにということが知れわたってきました。そこで副作用が出るときはどのような症状で身体のどの部分に出やすいかなど、いわゆる初期症状を分かりやすく話すように私たちは気をつけています。
次は製剤です。これも薬を作ることですが、調剤と違い、一度に一種類以上の薬を混ぜて、まとまった量の薬を一度につくることです。今は病院の中で使われる消毒薬などを一手に引きうけている病院薬局は少なくなっています。それは、同じ内容の薬が市販薬として安価に出回っているからです。薬剤師の数やコスト削減を考えれば、製剤業務縮小は時代の流れでしょうか。
また薬の管理も大切です。薬は製薬会社で厳しい管理のもとで製造されます。そして製薬会社から卸会社を経由して病院などに運ばれます。医師の処方が出て薬が使われるその時、製造された時点での効き目を発揮することが要求されます。有効期限が切れていたとか、本来無色のものが着色していては、安心して使うことが出来ません。薬は化学物質です。人体に病気の予防や診断、治療に使う大切な役目があります。この役目をキチンと果たすためには、薬の管理は実はとても大切です。
その昔、薬剤師は調剤室にこもったままでした。私はそのころの病院薬局について話をする時、「昔々、薬剤師は調剤室という檻(おり)の中にいました」と切り出します。それに比べ今は、開放的なカウンターを設置した薬局がよく見受けられます。薬剤師はこのようなことで患者さんと接する機会が多くなっています。患者と薬剤師が親しく話ができること、明るい清潔な調剤室で薬を作れる環境は、昔を思えば隔世の感があります。
一般に病院で働く人々を思い描く時、昔も今も、医師と看護婦はすぐ浮かぶことでしょう。しかし病院の中には診療放射線技師、理学療法士、栄養士、ケアマネージャー、ソーシャルワーカーなど多くのスタッフとともに、薬剤師もおります。その中で、スタッフにも患者にも働く薬剤師を感じてもらい、大いに利用していただきたいものです。医療チームの一員として薬剤師が活躍することは、必ず患者に多くの利益をもたらします。
また近年、薬剤経済学などが盛んとなり、医療費の無駄使いや減少などで経済的にも貢献できるともいわれております。賢い患者と賢い医療者がよりよい日本を築くことになると、私は考えています。