ばらす

今日も朝から「お薬お渡し口」に私は立っていました。ちょうど30人くらいの患者さんへ薬を渡したころです。

「すみません。今、薬をもらった山田一郎の家族です。おじいちゃんは指先が不自由ですし、目もかなり弱ってます。こんなに薬がいっぱいでは、本人が間違えずに飲めないと思います。なんとかなりますか」と若い女性が窓口に立たれました。
「山田一郎様ですね。ひとまずお渡しいたしましたお薬をお見せいただけますか」。私が応対している間に、同僚の薬剤師が患者さんの処方箋をそばに置きました。処方箋には患者名、性別や生年月日とともに7種類の薬品名が記入されています。飲み方は朝食前、朝食後、朝夕食後、朝昼夕食後、就寝前、とあり、薬は5袋でした。4袋には薬はシートのままで、別の1袋には半分に割った錠剤が1包ずつに分包されていました。
「では、こちらのお薬を、飲む時間ごとに1包みにいたしましょうか。少しお待ちいただくことになりますが」。私が声をかけると「助かります。お願いします」と言い、彼女は窓口を離れました。私は急いでそばにいた薬剤師に、「外来の方、ばらしです。急いでください」と声をかけ、処方箋とともに薬を手渡しました。

薬は通常、板状のシートに1錠ずつにきれいに並んだ状態で包装されています。このシートから薬を取り出すことは、手の不自由な方や目の見えない方にはなかなか大変なことなのです。
薬が数種類、しかも1回分が1錠、2錠、3錠と、それぞれ飲む量が違うとき、患者さんにとって、なかなか分かりにくいように思えます。そこで患者さんの状態によって、1回服用量を1包みにするやり方をすることがあります。これを「一包化調剤」といい、粒状の薬をバラバラの状態にするので、俗に「ばらす」と呼んでいます。

ここで、入院中の患者さんの薬について少し説明をしましょう。注射薬以外の内用薬や外用薬については「本人管理」と「スタッフ管理」の二通りのやり方があります。
「本人管理」は薬を正確に扱える患者さんの手元に、調剤した薬をそのまま渡しておくこと。服用時間ごとに患者さんが自分で1回分をとり出して服用し、その後スタッフはこのことを確認して回るだけです。「スタッフ管理」は1回分をスタッフが患者さんへ時間ごとに配って歩くやり方です。この時、1回分を配るためには「ばらす」ことで1包みとなっている方が便利なのです。病院内での間違い事故を防ぐ一つの手段でもあります。

外来の患者さんへは多くの場合、薬の飲み方や数で袋を別にして調剤します。この場合、薬はシートのまま袋に入れられます。しかし手が不自由な方、目の不自由な方にはこのシートのままでの調剤はまことに不便なわけです。

「山田様、できました」。薬と処方箋が私の手元に再び届きました。薬は先ほどと違う袋で5袋に分けられていました。朝食前、朝食後、昼食後、夕食後、就寝前、です。それぞれ半錠、6錠、4錠、5錠、3錠と一包みにされています。すでに別の薬剤師の確認終了印が押されていることを確かめてから、私は先ほどの若い婦人を呼び出し、薬を渡しました。

外来の患者さんは最近、高齢で一人暮らしの方が多く見られます。このような方は病院通いの際、家族やヘルパーさんが付き添って見えます。しかし自宅では一人です。そのためにも、外来患者さんへの「一包化調剤」は昨今急激に増えています。患者さんの実情にあった調剤をおこなうことも大切な患者サービスと思い、希望に添うようにしているのが現状です。

 


注釈

普通のやり方

袋1 1日1回
朝食前
オイグルコン

1回0.5錠

袋2 1日1回
朝食後
ワンアルファ

1回1錠

袋3 1日2回
朝夕食後
タガメット

1回1錠

袋4 1日3回
朝昼夕食後
セルベックス 1回1カプセル
メチコパール 1回1錠
ストロカイン 1回2錠
袋5 1日1回
就寝前
チネラック

1回3錠

 

一包化調剤をした時

袋1 朝食前
オイグルコン

0.5錠

袋2 朝食後
ワンアルファ

1錠

タガメット 1錠
セルベックス 1カプセル
メチコパール 1錠
ストロカイン 2錠
袋3 昼食後
セルベックス 1カプセル
メチコパール 1錠
ストロカイン 2錠
袋4 夕食後
タガメット

1錠

セルベックス 1カプセル
メチコパール 1錠
ストロカイン 2錠
袋5 就寝前
チネラック

3錠