疥癬患者取り扱いマニュアル

 

概略

  • 皮膚疥癬はヒゼンダニというダニが皮膚角質層内に寄生し、強い掻痒感を伴う疾患である。

  • 卵は23日で孵化し、34日の幼虫をへて、若虫となる。若虫から成虫までに脱皮するまで56日、幼虫・若虫ともに皮表を動き回り、毛穴などに入り込む。交尾後、雄はまもなく死ぬが、雌は角質層に毎日23個ずつ卵を産み続け、4〜6週間生き続ける。

  • 50℃10分間の熱で死滅するが、人体から離れても2週間は生きていたという観察もある。

  • 感染してから、2週間〜1ヶ月の潜伏期間後発症する。

 

感染経路

人の皮膚から人への接触感染が最も多いが、布団・ベッドの寝具や病衣も介することもある。

 

症状

激しい痒みが顔・頭以外の全身にみられ、夜布団の中で特に痒くなる。赤いポツポツ・大きなしこり・がさがさが体・腕・脚にみられ、指の股・手のひら・足の裏・手首などに水ぶくれが見られる。疥癬トンネルと呼ばれる36mmの細長い皮疹が特徴である。男性では陰嚢に赤褐色のしこりが見られる。

 

診断

  • 直接、顕微鏡下での発見は、即確定診断となる。

  • 痒みと皮疹があれば容易に診断がつく。

  • 症状が軽度の場合や二次感染の場合では診断が難しい。

  • 介護状況や家族の痒みなどの情報を把握することも大切である。

  • 早急に医師の確定診断を仰ぐ。なお解除する時も同様である。

 

治療

  • まず1%γ-BHC軟膏を塗布。(次項参照)その後612時間以内に入浴し、塗布した軟膏を洗い流す。

  • 入浴は610ハップ入りとする。(体洗いと洗髪)(次項参照)

  • 入浴後外用薬(オイラックス軟膏またはイオウ・サリチル酸・チアントール軟膏)を塗布する。顔・頭を除き、耳の後から全身に塗る。股・指の股・爪の先も塗る。(次項参照)

  • 必要に応じてかゆみ止めの内服薬も使用する。

 

参考

 

1%γーBHCオイラックス軟膏

処方

γーBHC 5g
オイラックス軟膏 495g

全量

500g

 

調整法

細末化したγーBHCにオイラックス軟膏の少量を加え充分練合し、残りのオイラックス軟膏を徐々に加え、混和均質とする。

 

貯法

室温保存

 

適応

疥癬症

 

γ−BHCについて

ヘキサクロロシクロへキサンの異性体のうち、殺虫効果を持つのはγ−体のみ。

有機塩素系殺虫剤の一種でリンデンとも呼ばれ、以前はダニ駆除剤として使用されていたが、日本では農薬取締法に基づく登録が昭和47年に失効しており、現在は使用されていない。

当然医薬品ではないため、試薬としての取り扱いとなり、指示または処方医師が全責任を持つことで使用されている。

 

610ハップ---塗布法―5倍に薄めた液を患部に塗布する。皮膚がただれているとき・皮膚の弱い部分・顔は禁止。

       湿布法―50倍に薄めた液(お湯)で湿布する。入浴後効果あり。皮

膚がただれているとき・皮膚の弱い部分・顔は禁止。

        入浴法―浴槽に610ハップをキャップ2杯(約14g)入れ、お湯が白

く濁った状態で入浴する。顔や頭も洗える。

                        感染者が入浴できない時は、清拭を行なう。洗面器にお湯2リ

                       ットル当たり610ハップ1.6gを入れ、お湯が白く濁った状態で

                       清拭する。

毎日新しいお湯とする。液が目に入らないように注意する。金

属類は取り外す。この液は洗濯機には使えない。ポリ・ホーロー

浴槽は黒ずむことがある。その時は黒くなったところまで水

を入れ、洗濯用漂白剤を100ml入れよくかき回し、翌日やわ

らかい布で洗い流す。

1%γ―BHCオイラックス軟膏---薬局にて用時調製する。

1回の塗布は20gを限度とし、首から下全身に満遍なく、塗り残しなく、皮疹部だけではなく全体に塗る。塗布後612時間以内に入浴させ、必ず洗い流す。びらんなどの上皮欠損部には塗布しない。

                              原則として1回目の塗布から2〜3週の間隔を空けて2回目の塗布を行なう。

オイラックス軟膏---薬局に常備している。

レスタミン軟膏---薬局に常備している。

イオウ・サリチル酸・チアントール軟膏(略称をSST軟膏とする)

・・・薬局に常備している。オイラックス軟膏にアレルギー症状が出る患者に対して使用する。

患者看護基準

 

必要物品

看護手順

1. 病室の管理

消毒用アルコール

     患者は医師の判断により直ちに個室に隔離する。

     床頭台・ドアノブ・水道ノブ・洗面台・便座などは消毒用アルコールで清拭または噴霧する。

     掃除は毎日行う。

     床は酸性水で拭く。箒は用いない。

     床に敷物が施されている時、排気をしない掃除機を使用し、掃除機のゴミ袋は毎日取りかえる。はずしたゴミ袋は消毒用アルコールを噴霧してから口を縛り、廃棄する。

     部屋の出入り口に粘着マットを置き、必ず出入りの際に使用する。

     上履きを出入り口で取り替える。部屋内で使用する履物は前部分がカバーで覆われたものを使用する。

     患者隔離解除後の部屋の消毒はアースレッドで行う

 

2. ガウンテクニック

ガウン

ディスポマスク

     手袋

   キャップ

     入口でガウン等の着脱をおこなう。

     ガウンなどは使用の都度、消毒用アルコールを噴霧する。

     ガウンは毎週1回必ず交換する。

     必ず手袋を用いる

     必要に応じてディスポキャップなどを用いる。

 

3.手指消毒

610ハップ

     入口でガウン等を着用する。

     部屋出口に610ハップ希釈液を置き、必ず手洗いをする。(水2Lに610ハップ1.6gを混和)ナースステーションへ戻り、流水石鹸での手洗いを2回繰り返す。その後、共同の布タオルは使用しない。

     610ハップの入ったベースンは朝夕交換する。

     退室時、身体(顔は除く)に消毒用アルコール噴霧を行う。その上でガウンを脱ぐ.更に、全身消毒用アルコール噴霧する。

 

4.看護用具、医療 

 機器の取り扱い

血圧計、聴診器、

体温計、氷枕、

輸液ポンプ、

点滴スタンド等

     使用する物品は可能な限り専用とし、室内に備えておく。

     患者が日常使用するものは専用とする。専用にできない時はアルコールで充分清拭してから他へ回す。

医療機器は不要になったらアルコールで充分拭いてから室外に移す。

5.処置

包交セット

     該当患者の処置は一般の患者を終えてから最後に行う。

     専用の包交セットを作り、室内に備える。

     衛生材料は、その都度必要な分だけ持ち込むようにする。

     処置の際は、その日処置のあるものは専用とする。

     包交後の汚染ガーゼ・ドレーン等は、室内でビニール袋に入れ、消毒用アルコールを噴霧してから口を縛り密閉した上で室外に持ち出し捨てる。

 

必要物品

看護手順

6.機械、機具類

 消毒方法

消毒用バケツ

アルコール

     使用後の器具は体液などの汚れを水洗後、ピユーラックス液(300倍)で60分一次消毒を行う。(金属類は禁)

     金属類は水洗してからホエスミン(100倍)orベンクロシド(10倍)へ浸漬後洗浄、オートクレーブ滅菌する。

     浸漬できない物品はアルコールで清拭または消毒用アルコールを噴霧する。

7.検査時の対処

アルコール

 

レントゲン撮影、心電図は原則としてポータブルとし、終了後は機械をアルコールで清拭または消毒用アルコールを噴霧する。

8.食事

消毒用アルコール

     ディスポ食器を使用する。

     下膳時、残飯と共にビニール袋へ入れ、消毒用アルコールを噴霧する。

9.排泄

 

     使用しなくなった尿器はピユーラックス液(25倍)で60分浸漬後洗浄する。

10.身体の消毒

610ハップ

     入浴する場合は最後にしてもらう。

     610ハップ入りの浴槽で入浴する。(浴槽にキャップ2杯の610ハップ)

     シャワーや浴槽を使用したら、浴槽や浴室内を流水で充分洗い流し、消毒用アルコールを噴霧する。

     脱衣カゴや使用した物は消毒用アルコールを噴霧する。

     清拭は610ハップ入りのお湯で行う。(お湯2L1.6g610ハップ)

     脱衣カゴや使用した物は消毒用アルコールを噴霧する。

11.患者、家族への

  説明・生活指導 

 

     医師が疥癬であることを説明する。看護婦は患者、家族に対し生活指導を行い、理解と協力を求める。(説明文参照)

     面会は家族のみとし、小児や病気の人は断る。

     面会時はガウンテクニックや手指消毒を指導する。

     新聞、雑誌の購入は家族などに依頼し、室外には出ない。

     隔離による精神的苦痛や不安の軽減に努める。

12室内清掃

酸性水

消毒用アルコール

     毎日行う。

     床は酸性水で拭く。

     喀痰・濃汁・体液などで汚染された個所は不織布で汚れをふき取る。汚れた不織布はビニール袋へ入れ消毒用アルコールを噴霧する。汚れを拭き取った場所にも消毒用アルコールを噴霧する。

13.ゴミ、危険物の

  処理

ビニール袋

消毒用アルコール

 

     ゴミは可燃物と不燃物に分けて捨てる.

     病室内では普通のビニール袋を使用する。(スーパーの袋でも可)

     ゴミを出す際、消毒用アルコールを噴霧してから口を密封する。

     点滴セットは点滴終了後、消毒用アルコールを噴霧してから持ち出す。その後それぞれの廃棄をする。


 

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必要物品

看護手順

14.リネンの取り扱い

ビニール袋

 

     シーツ交換は毎日1回、埃をたてないよう特に注意し行う。

     交換後のシーツや使用後の清拭タオル等はビニール袋に入れ、消毒用アルコールを噴霧して口を縛る。その後一般のものと同様に扱う。

     私物のリネン類は家族に依頼する。家庭では一旦50℃以上の熱湯に10分以上漬け、その後洗濯するように指導する。洗濯屋へ出すときも同様に行う。