疥癬患者取り扱いマニュアル
概略
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皮膚疥癬はヒゼンダニというダニが皮膚角質層内に寄生し、強い掻痒感を伴う疾患である。
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卵は2〜3日で孵化し、3〜4日の幼虫をへて、若虫となる。若虫から成虫までに脱皮するまで5〜6日、幼虫・若虫ともに皮表を動き回り、毛穴などに入り込む。交尾後、雄はまもなく死ぬが、雌は角質層に毎日2〜3個ずつ卵を産み続け、4〜6週間生き続ける。
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50℃10分間の熱で死滅するが、人体から離れても2週間は生きていたという観察もある。
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感染してから、2週間〜1ヶ月の潜伏期間後発症する。
感染経路
人の皮膚から人への接触感染が最も多いが、布団・ベッドの寝具や病衣も介することもある。
診断
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直接、顕微鏡下での発見は、即確定診断となる。
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痒みと皮疹があれば容易に診断がつく。
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症状が軽度の場合や二次感染の場合では診断が難しい。
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介護状況や家族の痒みなどの情報を把握することも大切である。
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早急に医師の確定診断を仰ぐ。なお解除する時も同様である。
治療
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まず1%γ-BHC軟膏を塗布。(次項参照)その後6〜12時間以内に入浴し、塗布した軟膏を洗い流す。
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入浴は610ハップ入りとする。(体洗いと洗髪)(次項参照)
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入浴後外用薬(オイラックス軟膏またはイオウ・サリチル酸・チアントール軟膏)を塗布する。顔・頭を除き、耳の後から全身に塗る。股・指の股・爪の先も塗る。(次項参照)
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必要に応じてかゆみ止めの内服薬も使用する。
1%γーBHCオイラックス軟膏
γーBHC |
5g |
オイラックス軟膏 |
495g |
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全量 |
500g |
調整法
細末化したγーBHCにオイラックス軟膏の少量を加え充分練合し、残りのオイラックス軟膏を徐々に加え、混和均質とする。
貯法
室温保存
適応
疥癬症
※γ−BHCについて
ヘキサクロロシクロへキサンの異性体のうち、殺虫効果を持つのはγ−体のみ。
有機塩素系殺虫剤の一種でリンデンとも呼ばれ、以前はダニ駆除剤として使用されていたが、日本では農薬取締法に基づく登録が昭和47年に失効しており、現在は使用されていない。
当然医薬品ではないため、試薬としての取り扱いとなり、指示または処方医師が全責任を持つことで使用されている。
610ハップ---塗布法―5倍に薄めた液を患部に塗布する。皮膚がただれているとき・皮膚の弱い部分・顔は禁止。
湿布法―50倍に薄めた液(お湯)で湿布する。入浴後効果あり。皮
膚がただれているとき・皮膚の弱い部分・顔は禁止。
入浴法―浴槽に610ハップをキャップ2杯(約14g)入れ、お湯が白
く濁った状態で入浴する。顔や頭も洗える。
感染者が入浴できない時は、清拭を行なう。洗面器にお湯2リ
ットル当たり610ハップ1.6gを入れ、お湯が白く濁った状態で
清拭する。
毎日新しいお湯とする。液が目に入らないように注意する。金
属類は取り外す。この液は洗濯機には使えない。ポリ・ホーロー
浴槽は黒ずむことがある。その時は黒くなったところまで水
を入れ、洗濯用漂白剤を100ml入れよくかき回し、翌日やわ
らかい布で洗い流す。
1%γ―BHCオイラックス軟膏---薬局にて用時調製する。
1回の塗布は20gを限度とし、首から下全身に満遍なく、塗り残しなく、皮疹部だけではなく全体に塗る。塗布後6〜12時間以内に入浴させ、必ず洗い流す。びらんなどの上皮欠損部には塗布しない。
原則として1回目の塗布から2〜3週の間隔を空けて2回目の塗布を行なう。
オイラックス軟膏---薬局に常備している。
レスタミン軟膏---薬局に常備している。
イオウ・サリチル酸・チアントール軟膏(略称をSST軟膏とする)
・・・薬局に常備している。オイラックス軟膏にアレルギー症状が出る患者に対して使用する。
患者看護基準
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必要物品 |
看護手順 |
1.
病室の管理 |
消毒用アルコール |
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患者は医師の判断により直ちに個室に隔離する。
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床頭台・ドアノブ・水道ノブ・洗面台・便座などは消毒用アルコールで清拭または噴霧する。
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掃除は毎日行う。
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床は酸性水で拭く。箒は用いない。
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床に敷物が施されている時、排気をしない掃除機を使用し、掃除機のゴミ袋は毎日取りかえる。はずしたゴミ袋は消毒用アルコールを噴霧してから口を縛り、廃棄する。
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部屋の出入り口に粘着マットを置き、必ず出入りの際に使用する。
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上履きを出入り口で取り替える。部屋内で使用する履物は前部分がカバーで覆われたものを使用する。
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患者隔離解除後の部屋の消毒はアースレッドで行う
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2.
ガウンテクニック |
ガウン
ディスポマスク
手袋
キャップ |
・
入口でガウン等の着脱をおこなう。
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ガウンなどは使用の都度、消毒用アルコールを噴霧する。
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ガウンは毎週1回必ず交換する。
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必ず手袋を用いる
・
必要に応じてディスポキャップなどを用いる。
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3.手指消毒 |
610ハップ |
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入口でガウン等を着用する。
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部屋出口に610ハップ希釈液を置き、必ず手洗いをする。(水2Lに610ハップ1.6gを混和)ナースステーションへ戻り、流水石鹸での手洗いを2回繰り返す。その後、共同の布タオルは使用しない。
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610ハップの入ったベースンは朝夕交換する。
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退室時、身体(顔は除く)に消毒用アルコール噴霧を行う。その上でガウンを脱ぐ.更に、全身消毒用アルコール噴霧する。
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4.看護用具、医療
機器の取り扱い |
血圧計、聴診器、
体温計、氷枕、
輸液ポンプ、
点滴スタンド等 |
・
使用する物品は可能な限り専用とし、室内に備えておく。
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患者が日常使用するものは専用とする。専用にできない時はアルコールで充分清拭してから他へ回す。
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医療機器は不要になったらアルコールで充分拭いてから室外に移す。 |
5.処置 |
包交セット |
・
該当患者の処置は一般の患者を終えてから最後に行う。
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専用の包交セットを作り、室内に備える。
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衛生材料は、その都度必要な分だけ持ち込むようにする。
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処置の際は、その日処置のあるものは専用とする。
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包交後の汚染ガーゼ・ドレーン等は、室内でビニール袋に入れ、消毒用アルコールを噴霧してから口を縛り密閉した上で室外に持ち出し捨てる。 |
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必要物品 |
看護手順 |
6.機械、機具類
消毒方法 |
消毒用バケツ
アルコール |
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使用後の器具は体液などの汚れを水洗後、ピユーラックス液(300倍)で60分一次消毒を行う。(金属類は禁)
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金属類は水洗してからホエスミン(100倍)orベンクロシド(10倍)へ浸漬後洗浄、オートクレーブ滅菌する。
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浸漬できない物品はアルコールで清拭または消毒用アルコールを噴霧する。 |
7.検査時の対処 |
アルコール
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レントゲン撮影、心電図は原則としてポータブルとし、終了後は機械をアルコールで清拭または消毒用アルコールを噴霧する。 |
8.食事 |
消毒用アルコール |
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ディスポ食器を使用する。
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下膳時、残飯と共にビニール袋へ入れ、消毒用アルコールを噴霧する。 |
9.排泄 |
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使用しなくなった尿器はピユーラックス液(25倍)で60分浸漬後洗浄する。 |
10.身体の消毒 |
610ハップ |
・
入浴する場合は最後にしてもらう。
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610ハップ入りの浴槽で入浴する。(浴槽にキャップ2杯の610ハップ)
・
シャワーや浴槽を使用したら、浴槽や浴室内を流水で充分洗い流し、消毒用アルコールを噴霧する。
・
脱衣カゴや使用した物は消毒用アルコールを噴霧する。
・
清拭は610ハップ入りのお湯で行う。(お湯2Lに1.6gの610ハップ)
・
脱衣カゴや使用した物は消毒用アルコールを噴霧する。 |
11.患者、家族への
説明・生活指導 |
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医師が疥癬であることを説明する。看護婦は患者、家族に対し生活指導を行い、理解と協力を求める。(説明文参照)
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面会は家族のみとし、小児や病気の人は断る。
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面会時はガウンテクニックや手指消毒を指導する。
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新聞、雑誌の購入は家族などに依頼し、室外には出ない。
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隔離による精神的苦痛や不安の軽減に努める。 |
12室内清掃 |
酸性水
消毒用アルコール |
・
毎日行う。
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床は酸性水で拭く。
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喀痰・濃汁・体液などで汚染された個所は不織布で汚れをふき取る。汚れた不織布はビニール袋へ入れ消毒用アルコールを噴霧する。汚れを拭き取った場所にも消毒用アルコールを噴霧する。 |
13.ゴミ、危険物の
処理 |
ビニール袋
消毒用アルコール
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ゴミは可燃物と不燃物に分けて捨てる.
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病室内では普通のビニール袋を使用する。(スーパーの袋でも可)
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ゴミを出す際、消毒用アルコールを噴霧してから口を密封する。
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点滴セットは点滴終了後、消毒用アルコールを噴霧してから持ち出す。その後それぞれの廃棄をする。 |
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必要物品 |
看護手順 |
14.リネンの取り扱い |
ビニール袋
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シーツ交換は毎日1回、埃をたてないよう特に注意し行う。
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交換後のシーツや使用後の清拭タオル等はビニール袋に入れ、消毒用アルコールを噴霧して口を縛る。その後一般のものと同様に扱う。
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私物のリネン類は家族に依頼する。家庭では一旦50℃以上の熱湯に10分以上漬け、その後洗濯するように指導する。洗濯屋へ出すときも同様に行う。 |