暑中お見舞い

平成12年夏、私はやっとの思いで知人や友人に次ぎのような暑中見舞いを出した。


初夏の候、ますます御健勝のこととお喜び申し上げます。久しくご無礼いたしておりましたことを深くお詫び申し上げます。

私、本年1月23日を持ちましてK総合病院を退職いたしました。院外処方箋発行に伴う薬剤業務改正が事由でした。21年間にわたったK総合病院の勤務では、多くの皆様方に大変お世話になりました。心より感謝申し上げます。K総合病院では昨年の夏、県当局への薬剤管理指導業務の届をすませたばかりで胸中は複雑でした。周囲の方々からは調剤薬局への移籍も薦められました。しかし病院薬剤師の道を全うしたい思いは押さえがたいものがありました。この頃幸いなことに数カ所の病院からお誘いがございました。もう一度病院薬剤師としての仕事のチャンスにめぐり合えたわけです。そのようなことで1月24日からS病院に勤務いたして居ります。

S病院は99床のこじんまりとした病院です。病院の歴史は古く、創立は大正時代とのことです。4月に就任された院長は3代目にあたられます。S病院で勤務をはじめ、すぐに薬剤管理指導業務立ち上げに取り組むことになりました。4月から介護保険も始まり病院は大変な事態でした。その中で注射処方箋での調剤や服薬指導の試験的実施も順調に行ってまいりました。医薬品情報管理室も設置されました。これらの業務に多くのスタッフが協力してくださいましたことはいうに及びません。その結果、5月1日には役所に薬剤管理指導業務の届を提出し、無事受理されました。

5月に入り本格的に取り組んだ服薬指導は一ヶ月間に約60回、約20人の患者さんに行うことができました。注射処方箋は新規に入れ替えられたコンピュータで印字されて出るようになりました。薬品の発注業務も薬局で行うようになりました。病院内は運営会議、診療会議、医局会、薬事委員会など名称改正や設置で活発に動きはじめております。そして今、薬局では医薬品情報管理業務に本格的に取り組みはじめました。薬剤情報収集と伝達がより良い診療や看護に役立つことを目指しております。このような業務は院内スタッフばかりではなく、薬の卸会社や製薬会社の方々の協力が必要です。ここでもまた人々に支えられて仕事を進めることができる自分の幸せを痛感いたしております。

昨年夏から今日まで長いようでもアッという間に日々は過ぎ去りました。K総合病院を去ることで多くの友人、知人との辛い別れもございました。特に薬局でいつも一緒にいた「仲間」とは惜別の念押さえがたく、別れが今もって、ただただ無念の一言です。今、S病院で薬局の新しい「仲間」と出会い、お互いが向上を目指し、道を切り開く喜びは「至福の時」です。今月56才を迎える私ですが、今少し、病院のため、患者のため、そして何より自分のため、仕事と身体を大切に日々を過ごしたいと考えております。日ごろご無沙汰ばかりの私ですが今後ともご指導の程よろしくお願い申し上げます。

かしこ


56通の封書は投函すると「ストン」と一声鳴いた。私の心はすっきり晴れ晴れした気分となった。また新しい一歩が始まろうとしている。

 


※語注


医薬分業=医師の診察と医師の発行した処方箋に基づく薬剤師の調剤行為を分業とする原則。処方箋による調剤行為は薬剤師のみに許されているが、我が国では医師自身による調剤も例外的に許されており、医薬分業の完全実施は達成されていない。

院外処方箋=医薬分業に基づき、病院などの医療機関から発行される処方箋のこと。発行された処方箋は全国どこの保険薬局でも有効期間内なら調剤することができる。

薬剤管理指導業務=注射薬を処方箋に基づいて薬剤師が調剤することを前提条件とした上で、入院患者に対して薬剤師がベッドサイドなどで服薬指導をする業務全体をいう。

服薬指導=薬剤師が患者に直接薬についての効能効果、服用法、副作用、相互作用などについて説明指導すること。

医薬品情報管理業務=薬についての化学的、物理的、その他の副作用や相互作用などのあらゆる情報の収集と管理伝達を行う業務。

薬事委員会=病院内で薬の購入、管理、取り扱いなどについて協議する委員会。医師や薬剤師が中心となって運営される。